初めは「どうして梅に仕事という言葉が付くのだろう?」と思ったものです。
薬が手に入りにくかった時代、家族の健康を担う女たちは、経験から梅の抗菌作用が健康に有用だと気づき、暮らしの様々な場面で生かしてきました。梅の実のなる5月末からスタートし秋までずっと、梅暦に従って仕込みは続きます。そもそも梅の木を育てることも含まれます。仕事とは、何かを作り出す、または、成し遂げるための行動のことですから、なるほど、これを仕事と言わずとして何と言う?!ですよね。
具体的な梅仕事というと、梅干し、梅肉エキス、梅酒、梅シロップ、梅ジャム、煮梅、梅布巾など。収穫した実を余すことなく使おうとする気持ちが現れていますよね。
そんなに健康にいいものなら、何か一つでいいから仕込んでみようと軽い気持ちで始めた梅仕事です。お決まりの梅酒から入り、梅干しや梅肉エキスにも一度だけ挑戦しました。ここ数年は梅シロップや梅ジャムを作って満足しています。梅干し作りにまだ憧れはありますが、本来は仕込んで1年~3年は寝かせよとのこと。到底おもりも出来そうにないので、しばらくは手を出せそうにありません。
実際やってみると、簡単なものでも梅の素晴らしさがわかりますし、とっても美味しい。うっとおしい梅雨ではありますが、梅仕事があるのは楽しみです。
梅シロップ、色々な作り方があります。今年は乗松祥子さん著「梅暦、梅料理」で紹介されているレシピで作ってみます。コツを少しお伝しますと、
- 青梅は一晩水につけてあく抜きをする。
- 梅は水洗い後、更にホワイトリカーの中でよく洗う。(大気汚染で意外と汚れているから)
- 砂糖は数種類混ぜると梅の風味をより引き出せるそう。私は氷砂糖、きび砂糖、グラニュー糖の3種を使いました。
- 下準備で梅は凍らせない。
梅仕事について、料理研究家で随筆家の辰巳芳子さんのご本も、とても為になりオススメです。2013年に発行された「仕込みもの」の中の一文を紹介させてください。
真に仕込みものらしい仕込みものを仕上げるには、ものがよい方向へ向かうように、ものに心を添わせ、一喜一憂の中に何ヶ月も”よくなれ、よくなれ”と願い働くのです。
ものを相手にする人々の中には、ものを支配する気分の持ち主と、そうではなく、ものに従い、ものの自由を認め、収まるべきところへ収まるように自分は手を貸すのみと心得ているかたとがあるようです。
「ものに従ってゆく態度」とは、「仕える態度」と言いうると思います。何ヶ月、ときには一年、二年。長い時間の中で仕えるには「込める」という表現を用いざるをえない、意志の定着と継続が、そこに認められます。「仕える」「込める」を一つにして、このような人間の業を「仕込みもの」と呼ぶに至ったのでしょうか。もしそうであるなら、まことに当然のことと考えます。
造園の仕事は植物や石、土、など自然が相手。思い通りになんてならないのが当たり前なので「元気に育ってね、良くなってね」とつい言葉にでてしまう。新しい環境で出来るだけよいスタートが切れるように、整えていく努力をするのみで、仕込みに通じるものがあります。とても共感した部分です。
ものは正直で、けっしてへつらいません。法則にかなった手のかけ方をすればよくなり、不足があれば、それなりの反応を示します。叱ってもらえる機会の少なくなる大人にとって、これは良い薬です。
奥深い梅仕事。毎年教わることがあるものです。