瀬戸内夏旅 ー 福武トレス2

瀬戸内夏旅の最終回は、福武トレスに新しく建てられたFギャラリーについて書きます。

Fギャラリー。エントランスへは石の階段を上がってアプローチ。パイプは木立ちに溶け込むよう考えられて直径38mmにされたとか。遠目から見ると本当に建物が見えない。ガラスが反射するので何かある?と思う程度です。

半田山の稜線に沿って、林に溶け込むように建つこの不思議な建物は、ご夫婦共に建築家のユニット、TNAによるもの。

屋根と床を358本の鉄パイプで支え、壁は全面ガラス張り。That’s all!潔いというか何というか。

この場所を直截に感じられる建築とは何だろうかと思いを巡らせた先に見えたのが(中略)外と中の境のない空間ー自ずと建築は解体されていき、人が佇む床と雨や日差しを遮る屋根が浮いているだけの構造です。

(パンフレットにあったTNAによる文の引用)

今どきは、建築の存在を消せば、名建築になるのか?

前回のブログで紹介した隈研吾氏設計の展望台も、山に埋もれていて、下から見ると建築の存在は感じられませんでした。安藤忠雄氏設計の地中美術館も然り。

確かに景観が素晴らしければ、人工的な建築は、出来るだけ存在感を消すのがベストなのかもしれません。

ギャラリーの下に滝が元の位置に復元。水は井戸を掘っても出なくて、山水でもなく水道を循環させているのだとか。

建築中の裏話も色々教えていただきました。

まずこの建物は基礎を作り、次に石積みや主だった植栽をして、柱、屋根と設置、最後にまた植栽、と交互工事をされたとのこと。建築が全面ガラス張りとなると、石工事はガラスを設置する前に済ませたいのは頷けます。互いの工程調整に相当ご苦労されただろうなと想像します。

滝については、この場所に忠実に復元したい造園と、建物の基礎工事をやりやすくするため移動してほしい建築とで、ちょっとしたバトルもあったとか。最終的には造園の意見が通ったようです。

滝の場所を変えるとなると、その周辺の納まりを大きく変えないといけないでしょうし、座敷から聞こえる音も変わってしまうかもしれません。造園サイドの譲れない気持ちは理解できます。柱の基礎もうまく固定されて建っているようですし結果オーライですね。

階段の上1段目のデザインがツボ。ディティールはめちゃくちゃ凝っていてかっこいい。
配線は直径38mmのパイプの中に仕込まれています。空調もトイレも厨房もうまく配置。徹底した仕舞いがすっきりとした眺めを生む。床下や奥の植栽の足元とか、自然に生えているように見えるかもしれませんが、全部新たに植えたもの。だいぶ馴染んできていますね。

平面図を見ると、建物はいくつもの不等辺辺三角形が合わさり、何かが破裂したような激しい形をしています。しかしその恐ろしく尖った鋭角は内部から見ると、不思議と暴力的でないのです。樹林に切り込んで消えていくような。

視線は勝手に遠くにフォーカスされ、その先には緑があるため、ふと気づくと建築は消えている。

むしろコーナが直角や丸だったら重く感じてしまったかもしれません。不等辺三角って軽さを生むフォルムなのだ、初めてそういう風に感じました。

カフェスペース。椅子の足もトレス(三角)
暑かったので喉カラカラです。カフェでアイスコーヒーとクッキーをいただきました。お皿はお約束の不当編三角形。
ギャラリーだけに、哲彦氏のコレクションが飾られています。この時は民藝の器や壺がいくつか展示されていました。恐らく哲彦氏愛用の?使い込まれたイームズラウンドチェアーも展示されていました。
3つめのエリアFサロン。ここは美津子氏の住居として一番初めに出来ていたらしいが、現在はイベントなどで使われるサロンに。建物の両サイド全てが窓でハーブなどを植えた洋風の庭が見渡せる。

庭屋一如の精神が、構想・設計から施工、また室礼まで見事に貫かれていると感じました。

これからサロンで色々なイベントが催されるようです。季節を変えてまた訪ねて見たい場所です。

福武トレスのウェブサイトはこちら

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この記事を書いた人

Dear Garden 代表
ガーデンデザイナー、一級造園施工管理技士

庭づくりを通して感じたことや、最新のガーデン事情、設計について、施工現場の様子、ガーデンデザイナーの暮らしや興味があること、などなど様々なコラムをお届けします。

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