坪庭作庭物語2-植栽

京都市山科区にある「ゆる音家」さんでの作庭記を3回に分けて書いています。先週9日から改修工事に着手、13日に無事お引渡しが済みました。

今日は2回目、植栽工事について。

まずは改修前の様子を↓

左奥がモチノキ、右奥にツバキ、右手前がシダレモミジ、そこここに実生の木々が育っています。

高い木塀に囲まれた幅2.7m奥行4m程の坪庭です。

元々植えられてあったのと思われるのはシダレモミジとツバキで、モチノキやナンテン他低木は実生かな?と想像され、どれも勢いよく育っていました。これまではオーナー様が剪定されていたそうで、どう整えたら良いのか判断がつかない場面もあったことでしょう。バランスと今後のお手入れのことも考慮して、モチノキとシダレモミジは残し、その他は思い切って伐採することをご提案しました。

木を処分するという行為は辛く、なかなかご自分では出来ません。私も木に対しては気の毒に思いますが、庭を良くするために決断を促すのも仕事です。その代わりといっては何ですが、切るときは前もって木と話をし、心を込めてお清めをさせていただいております。

さて、その残したモチノキのことですが。樹勢が強くなかなかの強者です。

伸び放題だったので、思い切って切り詰めさらに枝を透かしてもらいます。これだけで見違える程良くなりました。次に石組みをやり替えるために根元を囲んでいた石をはずすと、太い根がしっかりと地面をつかんでいました。樹勢が強いのはこの根張りのせいでは?と職人さんがおっしゃるくらい立派な根です。そこで、いくつかの根は切るとしても、太い根は思い切って見せるよう納めることにしました。

根の周りに苔を貼り、石を根が抱きこんだように据えてみると、まるで山に生えているような自然な感じになりました。この部分、物凄く気に入っています。

実生の木、切っても切っても生い茂る、持て余していた木が、どうでしょう?!堂々とした幹と根を魅せて、まさに主役に躍り出た感じ。私までもが何故か誇らしい気分です。

生命力溢れる根を見せることにしました。
横にかなり伸びていた根はどちらにせよ切れないし、石はそれに沿わせるようにしか据えられない。そのせいで延段が短くなってしまったけれど、これで良かったかなと。あるがままを生かすのもデザインです。

実は設計の段階で、モチノキの周りには石を据えないつもりだったのですが、根を表しで作ることまでは考えもしませんでした。

作りながら、あーでもないこーでもないと職人さんと話をして、状況にあわせてデザインを変えていく方が結果的に良くなることが多いです。だってそれがその庭の個性になるから。勿論お客様とお約束した所は勝手に変えられませんが。

それにその方が作り手も面白いと思うの。頭の中で考えただけの図面通りに作ったってしようがないんです。

そうして楽しんで笑いながら作った庭はいいオーラが出る気がするの。本当に。気持ちが植物にも伝わるからかな?

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さて、その他の植え込み。

坪庭はもともと茶道の露地の体裁を取り入れて作られましたが、広さが限られているので、露地が求める「市中の山居」といった風情に仕上げるのは難しいことです。でも出来るだけ自然に見えるように心掛け植物を配しました。

景石や飛び石・灯籠の傍に、まるで種が落ちて芽吹いたかのように、そしてそれらが自然に増えたかように植えていきます。石はそれだけでは厳しめに見えてしまいますが、植物が添うとなんと穏やかに見えることでしょう。

石に添わせるよう配置。ジャノヒゲはその線の美しさを見せたく細かく株分けして植付け。艶のある葉を持つヤブコウジ、ともに常緑です。
左のシモツケは落葉低木ですが合うと思ったので植えました。ヤブコウジはあちこちに。冬に赤い実を付けます。

露地の植物はモミジ以外は常緑植物を主として用います。派手な花、香りの強いものは用いないなど、いくつかセオリーがありますが、町家の場合はそこまでこだわらなくても良いかと思います。

こちらで元々育っていたハラン、ベニシダは移植。そして伐根したツバキの名残りとしてコンパクトに育つカンツバキを入れました。今まで赤い花を楽しんでおられたそうなので。無くなるとやっぱり寂しいものですものね。

これからは、より愛でやすいところで咲いてくれます。

雪見灯篭はここではちょっと異質な存在なので、シダレモモジで覆って主張しすぎないように。そして足元にカンツバキ。石とのバランスを見ながら緑を足していくと、庭に生気が満ちてきます。

仕上げにハイゴケを全体に貼りました。

ハイゴケはスギゴケやスナゴケよりも育てやすく、乾燥しても直ちに枯れることはありません。密なマット状になると雑草が生えにくくなります。

苔には植物の根にあたるものがなく仮根というもので石や土にへばりついています。植付け時はそれがないので目土を被せます。重しになり苔を動きにくくすると共に、乾燥から守るのです。

ですので、仕上がったばかりは、苔よりも目土の方が目立ってしまうのは仕方がないことです。数か月水を切らさないように育てると次第に青々としてきます。

ハイゴケを貼っていただいているところ。手前は既に目土が被せてあります。

微風が揺らす葉擦れの音、木漏れ日の光が苔の上で揺らぐ様、ほの暗く清浄感ある風情・・・。

そんな庭が、美味しい食事のひとときを、更に印象深くしてくれることを願います。

次回は、竹細工と照明について書きます。

庭の雰囲気を盛り上げる演出。最後まで手抜かりはありません。とても楽しくやらせていただきました。

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この記事を書いた人

Dear Garden 代表
ガーデンデザイナー、一級造園施工管理技士

庭づくりを通して感じたことや、最新のガーデン事情、設計について、施工現場の様子、ガーデンデザイナーの暮らしや興味があること、などなど様々なコラムをお届けします。

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