現場作業が雨で日程変更となり、その日の夕方、ぽっかりスケジュールが空いてしまいました。
出掛けるつもりで一応メイクしたり支度をしていたので、折角だし「行けたら行こう」と思っていた講演会に参加することに。
それは建築家 伊礼智氏の講演会。
自然素材を使い豊かに暮らせる小さな住宅設計で人気の建築家さん。全国の工務店で設計指導もされています。建築関係、とりわけ木造建築の世界では恐らく知らない人はいない・・・そんな方です。
私はご本や雑誌を通して伊礼氏の植栽ありきの設計手法に共感し、その延長でブログも拝見していました。
ここ滋賀県にも伊礼建築は何棟かあります。講演会は恐らくそれらを建てた工務店さんのアテンドかな?
「行けたら行こう」なんて気になったのは、会場がすぐそこにあるホテルで、席がまだ残っていたから。そしてテーマが「町と家の間を考える」だったので、きっと造園についても話されるだろうな、どんな風に設計されるのか聞いてみたいと思ったからです。
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講演は、沖縄ご出身というご自分の生い立ち、そして、ご実家や沖縄建築のお話から始まりました。
沖縄は、海と陸の間、この世とあの世の間、町と家の間…というふうに、何かにつけて「間(あいだ)」が豊かなんです。とおっしゃられたことが印象的でした。
年を重ねるごとに、沖縄の建築にどんどん回帰しているように思うともおっしゃっていました。
それに、天井高2100mmが何だかいい高さなんですよ~と何度も言われるのです。椅子に座ると、とても落ち着く高さなんだとか。
2100mmって、私なら(身長170cm)手を伸ばせば届いてしまうくらいの高さです。低っ!と思ってしまいましたが、よく考えたら実家にそういう部屋がいくつかあります。ですから、言わんとされていることは何となく分かりますが。
大きな窓を付けたり吹き抜けとの併用で圧迫感をカバーするらしい。そんな部屋が一つくらいあってもいいのかもしれませんね。
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さて、演題の町と家の間について。
伊礼氏は、構想の段階で、造園家さんと現地でアレコレ話すそうです。一般住宅では普通、庭は後付けで最後に相談される場合が多いのですが、それが設計時でもなく、構想時というところが特徴的です。
そして方位のセオリーに囚われず(南向きのリビングとか)、土地の良いところを読み取り、施主の希望や造園家さんの意向も取り入れつつ、設計を始めるということです。
なるほど、完成した住宅を見ると、植栽が後付けでないことがはっきり分かります。中から見て、近景・中景・遠景のバランスが良いので、開口部それぞれが意味を持ち、活かされているのかなぁと感じました。
造園家は建築家とは違う目線で住宅を考えますから、互いに強い信頼関係が築けたら、それは素晴らしい仕事が出来るでしょう。
それに、そういう設計手法って、やっぱり施主が望まないと出来ません。建物と違って庭は生き物なので育んでいくもの。庭を楽しめる気持ちがない施主だと難しいと思います。
植栽ありきで街並みにも貢献したいという施主だから伊礼氏を選ばれるのでしょう。それに、伊礼氏には施主をその気にさせる魅力もあるのかなと思ったり。
私は、そんな建築家、そんな施主と出会うためには・・・やっぱり自分を磨くしかありません。
同じ目線で考え、しっかり提案できるよう、いや、今も出来るつもりではいるのですが。
自分がやる事にどういう意味を感じるのか?仕事との関わり方含め、もっと考えてみたいと思った講演会でした。
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最後に、哲学者の野矢茂樹氏との対談の話をして下さいました。
野矢氏は「豊かなものは外部からやってくる。いいものは取り入れ、良くないものは取り入れない、建築ってそういうことでしょ」と言い放たれ、その言葉に感銘を受けたとおっしゃられていました。
敷地内で完結しない設計が町と住宅をつなぐのですね。