お客様のお庭に大きな株立ちのケヤキがあります。19年前に3m程の苗木を買い、ご自身で植え付けられたそうです。
アスファルト舗装された駐車場の中にある1.5m四方の植栽桝の中で育ち、いまや10m近くの立派なシンボルツリーになっています。
街路樹と同じく、根がアスファルトに覆われていて小さな開口部(根入れ60cmの頑丈なコンクリ桝)に植付けられた木なのに、ここまで大きく育つということは、よっぽど元の土が良かったのか、根の先が雨と空気をもらえる場所まで伸びているのか、どちらかかなと思っていました。
それがここ数年、片側のみ虫がついたり先枯れをしたりと調子が悪くなってきました。
悪い側の根元を見ると、かなり樹皮が割れて、サルノコシカケが育っていました。ケヤキは樹皮を剥がしながら幹を太らせていきますが、それとは明らかに違います。
サルノコシカケは木質化した菌類で、これが生えたら木の内部は菌糸が入り込んでいて腐っている可能性があると言われます。内部が腐り空洞化したら倒木の可能性があり危険です。昨今倒木による被害がニュースになったりしますから、心配にもなります。
「枯れてしまっても仕方がない。最後まで看取る」と諦め気味のお客様でしたが、今後の判断の参考にと、知り合いの樹木医さんに診てもらうことを提案しました。
このケヤキはお客様にとって思い入れのある木ですから、私も自分だけの判断ではなく、色々な方のご意見をお聞きして対処に当たりたい。お客様も樹木医さんの診断を聞きたいとおっしゃられ、来ていただくことになりました。
樹木医とは樹木のお医者さんです。私達造園業者以上に樹木に関する専門的な知識と経験を持ち、環境含めた総合的な診断をし、手当てしたり改善案を示してくれます。
普段は公園の木や神社のご神木とか巨樹、古木など、枯れたら非常に困るという木の対処をされているそうです。個人邸の木となると、その存在がどこまで重要なのかがひとつの目安ですね。
樹木医さんは、過去のその土地の状況や木の生い立ち、具合が悪くなった経緯を聞き、木や土を丁寧に観察し、樹皮を剥いで幹を叩いたりされていました。
このケヤキの根の大部分は素直に下に伸びているけれど、雨水や空気がもらえないことで、数本の根が地表面に上がり、その中の1本の根が幹を圧迫していたのです。狭い植栽桝の中で、根は逃げ場を失い、そこでどんどん太くなり(女性の二の腕位の太さでした)幹を締め付けていきました。圧迫された側の幹は次第に水が上げられなくなり乾燥して樹皮が割れ、菌が入り腐り始めたのではないかという診たてでした。
私はそこまで見えていませんでした。根が幹を締めあげていたなんて。西日があたるので乾燥で避けたのかなと思っていました。確かにそれも要因の一つらしいけれど。
樹木医さん、凄いです。
幹を圧迫している根は解くこともできないし、切断するとその根に繋がる幹や枝が枯れますからどうしようもないです。
今のところ倒木の可能性は少ないので、早急の対策として、腐った部分の樹皮を綺麗にして殺菌保護剤を塗り、幹の負担を減らすよう大幅に透かし剪定をすること、切り口にも保護剤を丁寧に塗るなどすることに。きれいだった樹形は崩れますが、しばらくは我慢です。
更に樹勢回復のための対策をするならば、アスファルトの一部を剥いで地面をほぐし、水と空気を送り込むことですが、これは大がかりになるし駐車場が使いにくくなるので要検討です。その費用でそこそこの木が植えられるはずですから悩ましいところですね。
どちらにせよ、お客様の一番身近な相談役として見守っていこうと思います。
今回、樹木医さんの診断に立ち会って、私もとても勉強になりました。これからも多くの木を見て学び経験を積んでいきたいです。