重陽の室礼-2017

重陽の日を前に、久しぶりに細見美術館へ行ってまいりました。

九月九日は重陽の節句。菊を愛でたり、菊酒を飲んだりして、長寿を願うのが習わしです。

ここは琳派のコレクションで知られる美術館で、会員になってる位大好きな場所です。開催中の展覧会「麗しき日本の美 ―秋草の意匠―」を堪能したあとは、館内にある茶室「古香庵」へ。今月は重陽の室礼を見せていただけると聞き、見学してまいりました。

お茶室は最上階にあり、数寄屋建築の名匠中村外二棟梁の遺作ということです。大らかな弧を描く大屋根の下に、一見ポンと置いただけのように見える軽やかなデザイン。モダン建築と数寄屋造りをつないでいるのはガラスでした。

茶室の造作の第一印象は「清らか」「端正」。開けた障子からは岡崎公園の緑が見えます。土間には縁台があり、菊の寄せ植えが飾られていました。これも室礼の一部でしょうか。

細見美術館のお茶室「古香庵」。天井と梁の間がガラス張りになっているモダンなお茶室です。ドラを鳴らすと、奥から係りの方が出て来られます。
寄せ植えに格子の竹垣が立ててあるのは、恐らく展示の中の屏風絵を真似てのことです。こういう絵があるのです。田中抱二筆「垣に秋草図屏風」というもの。
お軸の隣には着せ綿をした菊が生けてあります。真綿をすっぽり被せた菊は見たことがありますが、このように菊の上に乗せてる風は初めてみました。愛らしいです。お茶道具も重陽に因んだものが置かれています。
有職の茱萸嚢(ぐみぶくろ・しゅゆのう)と菊酒。茱萸袋は、翌年の端午の節句の薬玉飾りと掛け替えるまで柱に吊るし魔除けとされました。器はやはりというか菊の抹茶椀。

茱萸嚢を初めて間近で見ました。とても丁寧な作りで美しいものですね。こういった有職の造花は、御所での行事や儀式、とりわけ五節句の節会で、主に邪気祓いを意図して使われ、公家文化に深く根付いていました。現代作り手は減少の一途を辿っているそうです。

素敵な室礼に感化されて、帰宅して早速菊を飾りました。

額には扇と菊。そこに菊を添えて「菊尽くし」のつもり。竹籠から菊が飛び出しているように生けてみた♪
リビングには、菊に庭の花や緑を添えたアレンジを。何気なく摘んだものを寄せただけですが、不思議と秋っぽくなりました。
食卓には、余った半端な菊を集めミントを添えて、まあるく生けてみました。古香庵さんに因んで、今回は器をお抹茶椀にしました。五行説より秋の色は「白」です。

なぜ菊に綿を着せるのか?なぜ有職の造花を飾るのか?知ろうとしなければ、年中行事の室礼とは、摩訶不思議なものに見えるでしょう。私も初めは知らないことも多かったのですが、実践しながら少しずつ覚えてまいりました。

日本の年行事はいろいろな祈りを形にしたもの。ピュアな心は、身近な植物に託し形にすることが多いので、昔の人は今よりずっと自然を尊びながら暮らしていたのではないかと思います。

お客様の庭づくりをするとき、ただ景色を作るだけ、ただ育てるだけ、ではなく、こういう室礼も出来ますよということをお伝えして、暮らしをより豊かにするためのお手伝いがしたい。それにはまず自分から実践して感じなければ、中身のない情報になってしまう。そんな思いもあって、年中行事の室礼を勉強し、自分なりに飾って、こうしてブログにも書いているというわけです。

やってみると、季節の移ろいを心の深いところで感じることができ、家族を思う気持ちや命の大切さ、感謝の気持ちを一層深く持てるようになりました。部屋が片付くといったおまけもあります。毎回どんな風に飾ろうか考えるも楽しいですし、老舗のお店のさりげない室礼に自然に目が行くようになり、その空間をじっくり味わえるようになります。

日本人として、大人として、自分をより深めてくれる感覚が身に付くと思います。おうちで実践してお子様にも自然に見せてあげるのも良いのではと思います。いいことが一杯ありますよ。

これは玄関の坪庭に置いている龍のオブジェ(勝手に龍神様と呼んでいる)へ、お供えのつもりで。

さて、今晩あたり月を見ながら菊酒で一杯やるとしますか。

ではまた。

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この記事を書いた人

Dear Garden 代表
ガーデンデザイナー、一級造園施工管理技士

庭づくりを通して感じたことや、最新のガーデン事情、設計について、施工現場の様子、ガーデンデザイナーの暮らしや興味があること、などなど様々なコラムをお届けします。

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